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モンテネグロでの「陰謀」とロシアの関与、セルビアの動向

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Bună seara.
ミルチャです。

今回はモンテネグロ・セルビア・ロシアが絡む事件についてお伝えします。

この件について語るにはまだ十分な情報が出そろっておらず、憶測で語る部分が多くなってしまうのでこれを書くかどうか迷っていたのですが、とりあえず現在までに出ている情報と、それについての(控えめな)論評を書いてみます。

事が起きたのはモンテネグロ議会選挙の日、10月16日。元セルビア憲兵指揮官のブラティスラヴ・ディキッチ含むセルビア国籍数名が、モンテネグロのジュカノヴィッチ首相の支持者を襲撃し首相を拉致するという陰謀を企てたとしてモンテネグロ当局に身柄を拘束されました。

ディキッチは逮捕は不当だとしてハンストを行っている模様です。セルビア政府は事件とのセルビア政府の関係を否定しています。

その後、10月24日、ヴチッチ首相はセルビア国内でモンテネグロで違法行為を企てたとしてセルビア国籍の者数名を逮捕したと発表しました。これはモンテネグロで逮捕されたグループとは別のものであること、これについてもセルビア政府は無関係である、が、ある第三国と繋がりがあるという点に言及しました。
http://www.balkaninsight.com/en/article/serbian-pm-failed-to-explain-coup-in-montenegro-10-24-2016

そしてヴチッチ首相は、モンテネグロでの「陰謀」はセルビアで準備されたものであること、ジュカノヴィッチの行動は絶え間なく監視されていること、セルビアでは「東西の」情報員が活動していること、それに対して対処していく方針であることを表明しました。セルビアとモンテネグロの政治家の関与についてはやはり否定しています。
http://www.b92.net/eng/news/politics.php?yyyy=2016&mm=10&dd=25&nav_id=99497

この件はその後新たな展開を見せました。セルビアの有力紙Danas(ダナス)が、27日、セルビア政府に近い匿名ソースからの情報として、モンテネグロの「陰謀」に関与したロシア国籍の数名がセルビアから追放されたというものです。

この時期ロシアのパトルシェフ安全保障会議書記がインテリジェンス面での協力強化についての協議のためにセルビアを訪問しており、この訪問はこの事件で悪化する可能性のあるセルビア・ロシア関係を修復するためだという憶測がなされました。
http://www.b92.net/eng/news/politics.php?yyyy=2016&mm=10&dd=28&nav_id=99536

ロシア政府はこのロシア国籍者のセルビア追放の件について否定。セルビアのステファノヴィッチ内相はパトルシェフの訪セルビアは以前より決定されていたとしてこの見解を否定しています。

合理的に考えればセルビアがこの「陰謀」を企てたというのは考えにくいです。こんな無謀ともいえる襲撃・拉致を行えば、政府の関与を否定したとしてもセルビアは国際的、わけても欧州内で非常に苦しい立場に追い込まれ、それはセルビアの西側・ロシアと等距離を置くという基本スタンスにもとるものとなります。

確かにモンテネグロはNATO加盟を目前に控え、実現すればセルビアは事実上NATOに包囲されることになります。セルビアはNATO加盟志向の立場ではなく国民には反NATO感情が根強いですが、今現在NATOとの関係が悪化しているわけではなくむしろNATOもセルビアとの良好な関係を重要としています。

考えられるのは、やはりロシアの思惑でしょうか。セルビアをバルカンにおけるロシアの「橋頭堡」としているロシアにとってセルビアのNATOによる包囲は好ましいものではない。モンテネグロのアドリア海の港湾(コトル、バール)も魅力的である。ロシアはベオグラードとモンテネグロのバールを結ぶ鉄道修復に投資するなどモンテネグロの動向を重視してきました。もちろんNATO加盟には強く反対の意向を表明してきました。

モンテネグロ国内のセルビア系は概ね政府に対し反抗的です。ジュカノヴィッチ退陣とNATO加盟への反対を主張するデモではセルビア国旗とロシア国旗が振られました。

今までセルビア人とモンテネグロ人は武力紛争を起こすまでに関係悪化したことはなく、ユーゴ連邦崩壊までセルビアとモンテネグロの関係も概ね良好でしたが、セルビア系の反政府の姿勢が政府との衝突を招き、それが民族関係を損なうということは考えられうることだと思います。

今バルカンでセルビア系が絡む武力紛争が起きれば、それはロシアにとって都合の悪い話ではないのです。先日のワルシャワサミットでの決定通りNATOはバルト方面と黒海方面での前方展開の強化を行っています。その裏側の西バルカンでの武力紛争はNATOにとって厄介なものとなります。武力紛争単体でも厄介ですが、ロシアがセルビア系保護を名目に紛争地に部隊を派遣でもすれば、ロシアとの全面対決を避けたいNATOとしては90年代のような手荒な手法で紛争解決を行うことはできなくなります。紛争が長期化すればバルカンの他の地域も連鎖的に不安定化する可能性も出てきます。

今回の件ではセルビア政府内での亀裂という危険性も考えられるかもしれません。10月30日、ヴチッチ首相の自宅近くに止めてあった車の車内からRPG、手榴弾、銃弾が発見されました。
http://www.b92.net/eng/news/crimes.php?yyyy=2016&mm=10&dd=31&nav_id=99547

この件を、国外の情報機関の活動を抑え込むのに積極的な(少なくともヴチッチの声明から見るに)ヴチッチ首相への恫喝だと考えることも可能かと思います。セルビア内務省は「こちら側」でしょうか。

ただし、冒頭で述べたようにまだ情報が少ないので、今のところ「推測」しかできない段階であることをご理解ください。

ともあれ、モンテネグロがNATO加盟を目前に控えた今、ロシア(とセルビアのモンテネグロNATO加盟を望まない勢力)の行動が激化することは考えられます。

9月11日、モンテネグロのコトルで「バルカンコサック軍」が設立されました。指導者のザプラチン氏はロシア人でソ連崩壊後様々な紛争で転戦してきた人物です。設立式には記事によればバルカン諸国の26のコサック集団の代表とロシアの政権寄りバイカー集団「夜狼」のメンバーが出席しました。
http://www.rferl.org/a/balkans-russias-friends-form-new-cossack-army/28061110.html

コトルでは警察が強制捜査で銃器、弾薬を押収する事件も起きています。
http://www.cdm.me/drustvo/hronika/kotoranin-u-kuci-i-stanu-krio-vatreno-oruzje-i-municiju

今後とも目が離せない状況です。


今回はこんなところでしょうか。

Noapte bună. La revedere. 

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ロゴージン露副首相のセルビア訪問とバルカンの今後

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Dobry vecer!

エリシュカです。


ロシアのロゴージン副首相がセルビアを訪問しました。

行く前の記事では経済関係の議題が中心と報道されていたのですが、やはり軍事分野での関係強化が目的だったようです。

この件についての記事を見る限りロゴージンの主な目的はS-300などの兵器・兵器システム売り込みで、ここのところセルビアがしきりに気にかけているクロアチアの軍備増強の懸案を煽るような発言が目立ちました。

クロアチアはここのところMRLS導入やノルウェーとNASAMS導入の交渉に入るなど軍備の更新に活発な動きを見せています。

ロゴージンはこれに関して、ロシアをバックにしたセルビアの軍備増強はバルカン域内の勢力均衡に資すると強調しています。

この件でセルビア側の最大のネックは財政難です。ただこのあたりは、セルビアがロシアに取って地政学的に重要なものであるならばなんとかするのではないかと思われます。


総じて、現在のバルカンの安定はセルビアの現政権の存在にかかっているといってもいいような状況です。

セルビアのヴチッチ首相は、ボスニアで憲法違反と判断されたスルプスカ共和国の建国記念式典に参加し物議を醸しました。

スルプスカ共和国のドディク大統領は、ボスニアは国家として維持できる代物ではないと強調し独立への意欲と住民投票の実施に向けて動いています。

しかし前述のヴチッチ首相は式典において無難な発言を行い、またニコリッチ大統領もスルプスカ共和国の住民投票は支持しないと発言しています。

また先日、コソヴォでセルビア人の自治体設置とモンテネグロとの国境画定に抗議する大規模デモがありましたがその際デモ隊がセルビア正教会の建物をトイレとして使用していたことが報道され物議を醸しました。

この件でセルビアのダチッチ外相は、欧州で教会をトイレとして使用するのはコソヴォだけだと非難しつつも、この件を外交問題に発展させる気はないようです。そもそも一連のコソヴォでの抗議デモでセルビア人自治体設置が遅々として進まないことに不満を表明しつつも強硬な措置を取ることには言及していません。

スルプスカ共和国の独立に向けた住民投票への不支持表明、コソヴォ・アルバニア・クロアチアと良くないながらも先鋭的な関係にならないよう配慮、親露姿勢を見せながらも過度に露に寄り過ぎないセルビアの現政権の存在が今のところバルカン安定の要になっている観があります。


しかし、今後このまま安定状態が続くかどうかとなると、まだ不安は残っています。

セルビア国民(この場合セルビア民族)にはバルカン人特有の自分だけが最悪の被害者という意識があり、NATOに対する猛烈な被害者意識が蔓延している状態であり、今後EUの経済的神通力の弱まりとセルビア国内の政局変化如何では事態は動く可能性があります。

いまのところセルビアに過激民族主義を標榜しかつ政権担当能力のあるような政党がいないのでそう簡単にはいかないかもしれませんが将来について確定的には言うことはできません。


あとは、やはりロシアの今後の出方です。

セルビア人に対するロシアの影響力はユーゴ崩壊以降も強いものがあります。

クロアチア・ボスニア内戦ではロシアから「義勇兵」が参加していましたし、99年のNATO空爆で一向に音を上げる気配のなかったミロシェヴィッチ政権が事実上の降伏に動いたのは、ロシアからの強い働きかけが最も重要な要因であったという分析は多くなされています。

ミロシェヴィッチ退陣後のセルビアもロシアとの関係は維持していました。

今回、スルプスカ共和国のドディク大統領は住民投票にはロシアの支援が必要だと述べています。

NATOに対する被害者意識もあり、セルビア人の親露意識は強いものがあります。

最近の世論調査では多くのセルビア人はロシアに好意を持ちつつもEU志向という結果が出ましたが、それもEUの経済力の神通力が健在である間のみでしょう。


上に書いたように、現在のバルカンの安定のために現セルビア政権の存在が非常に重要な要となっています。

これが崩れれば、バルカンの情勢は一気に不安定化する恐れがあります。

セルビアのロシアへのプレゼンスが強まれば、コソヴォに駐留しているNATOのKFORは撤退できなくなるでしょう。またNATOの対露対策の一環としてルーマニアやブルガリアへのプレゼンスを強化しています。

しかし、肝心のバルカン半島西部の紛争については、西側に本腰を据えて取り組む意思があるかについては疑問が残ります。

米国も、墺など西側諸国もセルビアの繋ぎとめに努めていますが、米の駐セルビア大使は、米国の抱える重要事項の中でバルカン問題は優先度が低いと述べています。

西側主要国のバルカン管理の持続は必要不可欠です。 不安定化して有事になりかけた場合、頭に血が上ったバルカン人には通常の抑止が効かないのです。99年や1913年のブルガリアが好例です。バルカンは注意深く平時より管理していかねばならない地域なのです。


さて、セルビアのサンジャク地方で自治権付与を求める大規模デモが行われました。

記事は写真しか乗っていないのですが、民主行動党の旗とスレイマン・ウグリャニンがメインに映っているあたり、もう一人のサンジャクの政治指導者で現政権内にいるラシム・リャーイッチとの権力闘争の側面があるのかもしれません。

この点については今後書いていきます。


今回はこんなところでしょうか。

それでは、Na shledanou!

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セルビア首相、モンテネグロのバール港買収に意欲、その他

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Dobry vecer!

エリシュカです。


今回は短いですが重要な記事について2つ続けて書いてみたいと思います。


セルビア首相、「モンテネグロのバール港を一緒に買うパートナーを探している。中国に声をかけている。バール港はセルビアの輸出にとって重要だからだ」 
http://inserbia.info/today/2015/12/serbia-is-looking-for-a-partner-to-buy-montenegros-port-of-bar/

アドリア海に面したバールには海軍基地と司令部があります。モンテネグロのNATO加盟を念頭に置いてるとどうしても考えてしまいますね。

ベオグラード・バール鉄道修復に露が出資することもありますし、バックには露がいるのではないでしょうか。

露のバール、コトルへの関心は今に始まったことではありません。詳しくは以下のリンク先の記事で。

参考 Officials dismiss talk of Russian military base in Montenegro 10.02.2015
http://www.slobodnaevropa.org/content/officials-squash-talk-of-russian-military-base-in-montenegro/26839898.html

参考2 Montenegro rejects Russian request to open military base in Bar December 19, 2013
http://www.balkaninside.com/montenegro-rejects-russian-request-to-open-military-base-in-bar/

ロシアがモンテネグロのNATO加盟になぜあれほど過剰なまでのリアクションをしているのかの一端が見えてきた感があります。

ロシアがセルビアを手駒として手中にするとしてその目的を考えた場合、一つはセルビアを扇動してバルカン半島内の民族間の武力紛争を引き起こす(セルビアの政権の性格によってはそれほど難しくはありません)。

もう一つはEU、NATO域内にロシアのプレゼンスの「島」を形成する。この場合、セルビアは内陸国ですしプレゼンスを地中海まで広げるには海への出口が必要になる。

ギリシアは親露傾向がありますがNATO加盟国ですし、また政治経済的事情からも簡単には軍事的に露側になびかないと思われますし、またギリシアまでの出口を確保するためにはマケドニアをも手中にする必要があります。

マケドニアで露のプロパガンダが行われているという情報もありますので(ツイッターでマケドニアのジャーナリストが言っていたのですが申し訳ないのですがリンク無くしました)、そうした方向での努力は行われているのかと思われますが、簡単なのはモンテネグロへの方向でしょう。

モンテネグロの伝統的親露傾向があてにできるのなら、政権の性格次第で露側になびく可能性があります。

今現在のモンテネグロの反政府デモでセルビア国旗、ロシア国旗が振られているのを見ても何らかの関与が疑われるところです。


さて、次の話題。

先日トルコのダヴトオウル首相がセルビアを訪問しました。

投資など経済関係の話がメインだったのですが、トルコ側から対露関係についてセルビアの支援を求めていたという記事があります。
http://www.b92.net/eng/news/politics.php?yyyy=2015&mm=12&dd=29&nav_id=96530

この記事によればトルコ首相は「トルコ首相は露との関係正常化を望んでいる旨伝えた」となっています。

この件についてセルビアのニコリッチ大統領は、トルコからロシアとの関係の調停をしてくれるよう申し出があった件について、「言われたことは我が友ロシアに伝える。それだけだ。申し出は受け入れない」  と断りました。
http://inserbia.info/today/2015/12/serbia-welcomes-but-declines-ankaras-call-to-mediate-russia-turkey-ties/

しかしこの件について、トルコは本気でセルビアが露土関係を取り持てるだけの影響力があると考えてはいないだろうと思います。

セルビアにしてもロシアとの関係を損ねてまでトルコに肩入れする義理はない。そこはトルコもわかっているでしょう。

トルコ側がテンプレ的に言ったのをセルビア側がこう解釈したという可能性もあるかもしれません。

ちなみに、このあとの記事で、トルコ外相、セルビア大統領がトルコはNATOとロシアを戦争に引きずり込もうとしているとスプートニクのインタビューで述べたことについて「真実でない」、

大統領はトルコのギリシア領空侵犯にも言及、というニュースがあります。
http://www.b92.net/eng/news/politics.php?yyyy=2015&mm=12&dd=31&nav_id=96550


こうしたことから、セルビアとトルコが経済面以外で顕著に接近する可能性はかなり低いと思われます。


今回はこんなところでしょうか。

それでは、Na shledanou!

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セルビア・ボスニア・クロアチア関係、過去をめぐっての揺らぎ

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Dobry vecer!

エリシュカです。


前のエントリでお伝えした英国のスレブレニツァの虐殺の安保理でのジェノサイド認定決議案は、予想通りロシアによる拒否権行使により否決されました。

西側とロシアが新冷戦状態に突入しており、セルビアが親露国でロシアもセルビアを取り込もうと動いている状況下でのこの提案(スレブレニツァのジェノサイド認定は旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(ICTY)においてすでになされています)はロシアの拒否権をくらうことは明白であり、何かしら別の意図があったのではないかと思いたくなります。

例えば私がTwitterでフォローしている限りの西側のリベラリスト達はこの件でセルビアのみならずロシアも非難しており、ロシアの西側におけるイメージがさらに悪化したことは確実でしょう。


ちなみにセルビア人側は、この件に対抗する形で、セルビア人に対するボシュニャク人による「スレブレニツァ・ブラトゥーナッツの虐殺」の慰霊碑を建立、追悼式を行いました。
http://inserbia.info/today/2015/07/bih-day-of-remembrance-for-serb-victims-in-bratunac-and-srebrenica/

この件については議論があり、少なくとも国際社会はこの「虐殺」の存在について否定的です。

しかしこれはボスニア内戦を取材したミーシャ・グレニーの「ユーゴスラヴィアの崩壊」307ページで報じられており、私はずっとこの虐殺は存在するものだと思っていました。


バルカン人には、自分たちが過去に「何をしたか」よりも「何をされたか」を優先するという性格があります。被害者意識が極端に強いのです。

この英国提案決議案についての議論が起こりかけていたころ、スルプスカ共和国では第二次大戦中の「コザラの戦い」追悼式が行われスルプスカ共和国大統領ドディクも出席しました。

当時、この周辺で活動していた共産パルチザンが枢軸軍によりコザラ山脈に包囲され、地元のセルビア人住民とともに約1万人が捕虜となりクロアチア独立国を牛耳っていたウスタシャのヤセノヴァツ絶滅収容所で殺害されました。

ちなみに90年代のボスニア内戦時におけるセルビア人によるボシュニャク人に対する「プリィエドルの虐殺」はこの報復の意味があったとされます。

しかしセルビア人により響くのは先のコザラの虐殺で、こうしたバルカン人の強烈な被害者意識はバルカン安定に関わる者は必ずわきまえておかなければならないものです。


ボシュニャク人によるスレブレニツァ虐殺追悼式典のほうにはセルビアもヴチッチ首相を派遣しました。

しかし、投石で出迎えを受けたことは、日本でも報道されましたのでご存知の方も多いと思われます。

ただ、救いがあるのは今のセルビアのニコリッチ政権がボスニアの不安定化を望まないことです。

ヴチッチ首相はスルプスカ共和国の住民投票の動きについて懸念を表明しています。
http://www.b92.net/eng/news/politics.php?yyyy=2015&mm=07&dd=17&nav_id=94802

さらに、7月22日にボスニアの大統領評議会の三人がセルビアを訪れ、無難な関係をアピールしました。
https://twitter.com/SerbianPM/status/623874070162112512

ボスニアはクロアチア人・ボシュニャク人によるボスニア連邦とセルビア人によるスルプスカ共和国の二つにより構成されていますが、その三民族から一人ずつこの二つの自治体の長以外の人物が大統領評議会のメンバーとして選出され、八か月交代で一人ずつ国家元首の座につきます。

写真はボシュニャク人代表の、ボスニア初代大統領アリヤの息子のバキル・イゼトベゴヴィッチとセルビアのヴチッチ首相がチェスに興じているところです。
https://twitter.com/MrNeny/status/623877758142271489


しかし、この地域に影響を及ぼしかねないイベントがまだ一つあります。

8月4日から5日にかけてクロアチアが予定している、クロアチア内戦を事実上終結させたオルーヤ(嵐)作戦の記念パレードです。

セルビアはこれに反発し、クロアチアがNATO加盟国など各国に参加要請をしていることに関して、海外要人のこのパレードへの参加はセルビアへの侮辱だという声明を発しています。
http://inserbia.info/today/2015/07/vucic-foreign-officials-attending-parade-in-zagreb-as-insult-to-serbia/

こうした地域からの難民で構成されるセルビアの難民組織の代表は、欧州議会議長にこのパレードの中止を求める決議を支持するよう要請しています。
http://inserbia.info/today/2015/07/linta-urges-schulz-to-support-resolution-on-croatian-military-operation-storm/

以前にも書いたようにこのオルーヤ作戦ではクロアチア政府軍によるセルビア人への残虐行為が発生し、その責任と問われこの作戦を指揮したアンテ・ゴトヴィナ将軍はハーグに収監されたものの、無罪放免となって帰国しセルビアの憤激を買いました。

ただでさえ悪化しているセルビア・クロアチア関係をさらに悪化させる可能性のあるこの件は、ボスニアの安定にも影響を及ぼすおそれがあります。


今日はこんなところでしょうか。

それでは、Na shledanou!

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セルビアをめぐる東西の綱引きとスレブレニツァジェノサイド認定

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Dobry vecer!

エリシュカです。


前のエントリで西側はバルカンの固めをおろそかにしている印象と書きましたが、少なくとも米国は意識しだしているようです。

6月2日米国のバイデン副大統領の招きで米国を訪問したセルビアのヴチッチ首相は米国によりかなりポジティヴな態度を示されたようです。

これに先立ちヴチッチはセルビアの資源依存はロシアに限ったものになってはならないと発言しており、おおまかな流れはすでに大筋がついていた模様です。

http://bigstory.ap.org/article/85838d51a1e142099dc1c14a4e6184f2/premier-serbia-ready-reduce-dependency-russian-gas

訪問先の米国でもヴチッチは同様の発言をし、

http://inserbia.info/today/2015/06/drifting-away-from-russia-vucic-says-gas-supply-sources-must-be-diversified/

またEU加盟などについて米国からのサポートが得られるとも発言しています。

http://www.b92.net/eng/news/politics.php?yyyy=2015&mm=06&dd=04&nav_id=94328

またマケイン上院議員とも会談し、マケイン氏のセルビア訪問についても論じられた模様です。

http://inserbia.info/today/2015/06/mccain-serbia-deserves-to-be-strongly-supported-by-the-united-states/

ただセルビアはNATOには加盟しないことを再確認する、またセルビアは東西の仲介者としてのスタンスであることを強調するなど過度に米国寄りにはならない姿勢もまた示しています。


これに対抗してなのか(対抗してなのでしょうが)ロシア外務省はクロアチアにおいてセルビア人が迫害されているという文書を作成しました。

http://inserbia.info/today/2015/06/moscow-serbs-in-croatia-forced-to-change-their-religion/

http://www.b92.net/eng/news/region.php?yyyy=2015&mm=06&dd=08&nav_id=94366

セルビア・クロアチア関係が十分に悪化している現在、これについてのクロアチア政府の対応いかんによってはセルビアからのネガティヴな反応が出ることも予想され、90年代初頭から今に至るバルカン情勢を鑑みればロシアは危険なカードを切ったなという印象です。


しかし、ここにきて、意外なところからそうした関係をさらに悪化しかねない要因が飛び出してきました。

ボスニアの英国大使が、今年がスレブレニツァ虐殺20周年であることから国連安全保障理事会でそれをジェノサイド認定すための草案を作成中だと発言しました。

http://inserbia.info/today/2015/06/britain-drafting-un-resolution-on-srebrenica-genocide/

これについてセルビア、そしてボスニアのスルプスカ共和国は反発しています。

http://www.balkaninsight.com/en/article/uk-resolution-on-srebrenica-slammed-by-serbs

この英国大使の言によればスレブレニツァの虐殺をボスニア内戦で殺害された三民族すべての犠牲者の象徴とする考えのようですが、

これがいかに危険なことであるか、ボスニア内戦について知識がある人なら理解できると思います。

あの内戦は三つ巴であり(当初ボシュニャク人とクロアチア人は共同でセルビア人に当たっていたがじきに戦闘を開始し、西側による強い圧力により再び連合を結成)、どの民族も他の二つから被害を受けた記憶があります。

特に被害者意識が強く自分たちの受けた被害を優先的に覚えているバルカン人なら尚更です。

この件により、

・セルビアとボスニアのボスニア連邦(ボシュニャク人、クロアチア人)との関係

・スルプスカ共和国(セルビア人)とボスニア連邦との関係

だけでなく、

ボスニア連邦内のボシュニャク人とクロアチア人との関係も悪化させ、その結果

クロアチアとセルビアとの関係、さらにセルビアのサンジャク地方のボシュニャク人とセルビア政府との関係が悪化する可能性があります。


そしてこれはロシア側にセルビアをさらに追いやる可能性があります。

セルビアの新聞ダナスはロシアに援助を求める可能性について論じています。

http://inserbia.info/today/2015/06/russia-to-cast-veto-on-srebrenica-resolution-if-serbia-requests-it/


コソヴォの状況はあいかわらず、マケドニア情勢が混迷しているなどバルカンで不安定要因はあいかわらず存在する中、こうした新たな火種を作ることは、それがどんな意図からなのかを問わず、全くバルカンを理解していないで弄ろうとする愚考の最たる者でしょう。


ボスニアでは民族間の敵対意識はまだ消えていない状況です。

前のエントリでボスニアのズヴォルニクでの警察署襲撃について触れると書きましたので、概要だけ述べてみたいと思います。

4月27日、ボスニアのスルプスカ共和国の町ズヴォルニクの警察署が襲撃され、警察官のドラガン・ジューリッチが死亡し他の警官数人も負傷するという事件がありました。

犯人はイスラム過激派であり当局の捜査により実際にそうした人物たちが逮捕されましたが、この件の背景には民族間の憎悪があることが指摘されています。

主犯格のネルディン・イブリッチの父は、ボスニア内戦時ズヴォルニク近辺で行われたセルビア人勢力による虐殺により死亡しています。

そして死亡したセルビア人のドラガン・ジューリッチはセルビア人によるスレブレニツァの虐殺当時スレブレニツァを含む行政区管内で任務にあたっていたことが2004年のスルプスカ共和国により作成された文書により公表されています。

そのリストは単にその管内で任務についていたことを述べただけであり、虐殺に関わっていたことを示すものではありませんが、それをどう受け止めるかは受け手次第です。

ちなみにジューリッチの父も内戦時にボシュニャク人により虐殺されています。

そして、さらなる不安定要因がイスラム過激思想の流入です。

これは民族間の憎悪の歴史に比べればはるかに歴史が浅い最近の要素なのですが、民族間の対立に悪影響を及ぼすのは必至でしょう。

この件で逮捕された過激派たちは中東帰りであることも指摘されています。

また、この件でスルプスカ共和国のドディク大統領はスルプスカ共和国が独自の警察機構を持つ可能性について言及しています。



今日はこんなところでしょうか。

それでは、Na shledanou!

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プロフィール

crnaoluja

Author:crnaoluja
こんにちは。
東欧地域の戦略環境分析が専門のシンクタンクで研究員をしておりますチェコ出身のエリシュカ・マジャーコヴァーと申します。

ネクロマンサーのすぴか、その一味のミルチャ・アントネスクとともに東欧情勢について御説明していきたいと思います。

ハンガリー以北(V4)+バルト三国は私、南東欧がミルチャ、地政学・戦略論など理論面はすぴかが担当致します。

文責は @crnaoluja (twitter)

ミルチャのアイコン絵はあんねこ先生より頂きました。
http://a-n-neko.tumblr.com/

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